適性検査SPI3お役立ちコラム
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ベイジ代表・枌谷氏に聴く組織変革の乗り越え方
~人員配置・管理・採用の刷新を支える
適性検査の活用~
生成AIの普及など、事業を取り巻く環境は目まぐるしく変化しています。これまでのビジネスモデルが通用しなくなり、やり方や組織のあり方を変えざるを得ない企業も多いのではないでしょうか。
しかし、いざ組織体制を変更すると、想定外の課題に直面することが少なくありません。優秀だった社員が実力を発揮できなくなったり、経営陣と現場の間に溝ができたり。あるいは、新任マネージャーがこれまで関わりのなかったタイプのメンバーをまとめることになったりと、様々な変化が起きます。
組織再編の決断は経営トップが行いますが、その後の現場の混乱や戸惑いに向き合うのは、実際にメンバーと接するマネージャーたちです。
企業のBtoBマーケティング・採用・業務効率化をWeb制作で支援する株式会社ベイジは数年前、組織を大きく再編しました。新たにマネージャーとなった社員のほぼ全員がマネジメント未経験という状況もあり、体制が落ち着くまでにはおよそ2年の歳月を要しています。
その混乱期において、代表取締役の枌谷力氏がマネジメントの手がかりにしたのが、社員一人ひとりの適性検査の結果でした。採用選考のツールとして使われがちな適性検査を、枌谷氏は「社員への接し方を考えるための材料」として活用しています。
変化に合わせて組織を変えるとき、何を頼りに人と向き合えばよいのか。お話を伺いました。
●インタビューしたのは
枌谷 力(そぎたに つとむ)氏
株式会社ベイジ代表取締役。大阪出身。1997年NTTデータ入社、2001年にWebデザイナーに転身し、2010年に株式会社ベイジ設立。2021年より、クラスメソッド株式会社のCDO(Chief Design Officer)に就任。
組織を大きく変える以上、ある程度の混乱は想定していた
――組織を大きく変えた経験をされたと伺いました。どのように変えたのでしょうか。
枌谷力氏(以下、枌谷):
以前は、デザイナーやエンジニアといった職種ごとに組織が分かれており、それぞれのベテランがメンバーをまとめる体制でした。いわば、スキルをベースにした組織設計です。
それを解体し、複数の職種が同じチームに混在する体制へと移行しました。チームを3つに分け、職種に関係なくマネジメントに適性がありそうな社員をマネージャーに任命したのです。
それまでもリーダーという立場はありましたが、役割の定義は今ほど明確ではありませんでした。放任のタイプもいれば、細かく面倒を見るタイプもいて、マネジメントの機能としてはあまり働いていなかったというのが実際のところです。
――なぜ、その変更が必要だったのでしょうか。
枌谷:
まず、Web制作というビジネスだけで事業を続けていくのは厳しいという判断がありました。生成AIをはじめとして技術も市場も変わっていく以上、制作という行為そのものの価値も変わっていくはずです。
社員のキャリアを考えても同じことが言えます。制作のスキルだけを身につけて、それがこの先どれだけ役に立つのか正直わからないと思っていました。
同時に、職種で分かれた組織には構造的な問題もありました。同じ職種だけで集まっていると、その職種特有の価値観や判断基準が濃縮されてしまいます。プロジェクトでは他の職種と一緒になっても、日常的に接するのは同じ職種の人ばかりですから。
しかも、プロジェクトの動きは職種のチームとは別に進みます。そのため、同職種の上長にあたるリーダーからはメンバーが実際のプロジェクトでどう働いているのかが見えにくく、人事評価の時期になると周囲に聞いて回ることになっていました。
職種が混ざれば、別の職種の人が継続的に近くにいて日常的なやりとりが生まれます。自分の専門分野にとらわれない視野やビジネス感覚が育ちますし、マネージャーを育てる土壌もできる。ビジネスパーソンとしての本質的な経験を積めるのは新しい体制のほうだと考えたのです。
――再編にあたって、どのような見通しを持っていましたか。
枌谷:
組織を大胆に変えれば、落ち着くまでに2年はかかるだろうと思っていました。1年目は試行錯誤で失敗を重ね、2年目に反省を受けて少し改善し、3年目あたりからようやく結果が出る。そういうものだろうと。
ですから社外で個人的に親交のある経営者の方などには、「今チームを変えようとしているので、おそらく離職が増えると思う」と当時から話していました。「それでもやりきらないと、いつまでも同じようなWeb制作会社のままではいられないので、離職や赤字のリスクがあってもやる」と。組織の混乱に直面する覚悟は持っていましたね。
ただ、現場を不安にさせてしまうので社内では言いませんでした。何も起こらなければいいなとも思っていましたが、口に出すと本当に起こりそうな気もしたんですよね。
――実際には、どのようなことが起きましたか。
枌谷:
マネージャーに任命された社員のほとんどは、人を見るという仕事が初めてでした。マネジメントの1年生がいきなり重い役割を担う状態で、全員が手探りだったと思います。
経営陣にとっても初めての体制だったため、最初の半年ほどは経営陣と現場を預かるマネージャーとの間に距離ができてしまいました。任された側には「経営陣がちゃんとサポートしてくれない」という不満があり、経営の側には「権限を渡しているのに動いてくれない」というもどかしさがある。どちらかが悪いというより、お互いに不慣れだったということだと思います。
メンバーの異動やチームの再編も起きて、離職も増えました。想像していなかったこともありましたが、混乱すること自体はある程度想定の範囲内ではありました。
経験のない人に任せられたのは、メンバーを知るための材料があったから
――新たにマネージャーとなった社員の方々は、何に困っていたのでしょうか。
枌谷:
これまで接点の少なかったメンバーを預かることになった点です。職種が違うこともあれば、同じ職種でも一緒に仕事をしたことがないケースもありました。
相手が何を得意としているのか、どう伝えれば響くのか、何にストレスを感じるのか。そういったことが全く分からない状態からスタートしているわけです。しかも、自分の職種の後輩に技術を教えるのとは全く違う、「人を見る」という仕事自体が初めてでしたからね。
――そこを、どのようにサポートしたのでしょうか。
枌谷:
社員全員にSPI3を受検してもらい、その結果を全社員が閲覧できるようにしました。
私たちは以前から、社内の情報はなるべくオープンにしています。一部の人しか知らない情報があることで起きるトラブルのほうが多いと思っているので、開示して問題のない情報は見せたほうがいいという考えからです。そのため適性検査の結果も同じ扱いにしました。
特に大事なのは、マネージャーの傾向をメンバー側が知っておくことだと思っています。マネージャーも一人の人間ですから得意・不得意があります。それなのに「マネージャー」という肩書だけで見られると、何でもできるスーパー社員のように期待されてしまいます。そうではなく、「あの人はこういうところが苦手だよね」とあらかじめ理解してもらいたかったのです。
マネジメント経験のない人に任せるのであれば、なおさらです。完璧でなくていいという前提が共有されているほうが、本人も動きやすいと考えています。
――具体的には、どのように使われているのでしょうか。
枌谷:
生成AIを使って、社内のタレントマネジメントシステムを自作しました。社員ごとのページにSPI3の結果も集約されています。誰でも閲覧でき、チームを選ぶとチーム全体の傾向やマネジメント上の注意点も表示される仕組みです。
ただ見るだけで終わらせては意味がないので、人に関する判断が必要になったときには、まずそのシステムを開くようにしています。
たとえば「このメンバーが伸び悩んでいるようだ」という報告が上がってきたとき。まずその人の結果を見て、「こういう傾向があるから、こうアプローチしてみてはどうか」と伝えます。これは今でもよく行っていますね。
社員との1on1の前にも使います。自分と相手の結果を並べて、どう話を切り出すかを考えるためです。同じ内容を伝えるにしても、自分の感覚のまま話すと、相手には「自分はダメなんだ」とネガティブに受け取られてしまうかもしれません。相手のことだけでなく、自分の傾向も客観的に見ることに意味があります。自分のことは意外と分かっていないものですから。
もちろん、これで全てを決めるわけではありません。「この人はこういう傾向だから、こうしたほうがうまくいく可能性が高い」という程度に参考にしています。
――組織全体の混乱は、どのように収まっていったのでしょうか。
枌谷:
2年ほどかけて、ようやく落ち着いてきました。離職率も以前の水準に戻りつつあります。正直なところ、時間が解決してくれた部分は大きいですね。特効薬はありませんでしたし、1年目は失敗の連続でしたから。
ただ、全員が手探りだった時期に、人と向き合うための「共通の材料」があったことは大きかったと思います。「この人にどう接すればいいか分からない」と立ち止まってしまったとき、手がかりがあるのとないのとでは大違いです。お互いの傾向が見えていれば、「なぜあの人はああいう行動をとるのか」を考える材料にもなります。
混乱そのものは避けられませんでしたが、その期間に人を見る土台をつくれたことが、今の安定につながっていると感じています。
人は単体では評価できない。チームは「誰と誰を組ませるか」で決まる
――組織を変えるとき、メンバーの配置はどのように考えているのでしょうか。
枌谷:
人事やチームづくりは、すべて「相互作用」だと捉えています。
一人ひとりを見て「この人は優秀だ」「この人は少し足りない」と評価しても、チームがうまくいくかどうかは別の話です。同じ人でも、誰と組むかで結果は全く変わってきます。
ですから、うまく回っていないチームがあったとき、「この人の能力が足りないのではないか」と疑う前に、誰と組んでいるのか、誰がマネジメントしているのかを見るべきです。配置を考えるときは、個人の資質と「誰と組むか」を必ずセットで検討しています。
――具体的には、どのように組み合わせを見ているのでしょうか。
枌谷:
特に注視していたのは、チームを率いるマネージャーと、補佐する立場のメンバーの組み合わせです。二人のSPI3の結果を並べて、この組み合わせでチームの強みや弱点がどうなるか、どういうトラブルが起きそうかを予想します。
相性が良さそうに見えて、うまくいかないケースもあるんです。たとえば、補佐する側がマネージャーを強く立てるタイプだと、相手に欠点があっても指摘しません。顔を潰さないように動くので一見バランスが取れて見えますが、崩れ始めたときに歯止めがきかなくなります。
では、はっきり物を言うタイプを隣に置けばいいかというと、そう単純でもありません。率直な指摘をストレスに感じるマネージャーもいますから。単にお互いの足りないところをパズルのように補えばいい、という話ではないんです。
こうした見立ては、SPI3のようなデータがなければ感覚でしか判断できなかった領域だと思います。
――そこから、どのような法則が見えてきましたか。
枌谷:
いかに「馴染み合えるデコボコ」をつくるか、ということですね。
似たようなタイプばかりを集めると居心地は良いですし、一見盛り上がります。ただ、全員が同じ方向に偏っているので組織としての穴が空きやすい。かといって価値観がデコボコすぎると対立してしまう。
SPI3の結果を見ても同じことが言えます。数値が低い項目が多い人でも、組み合わせが良ければしっかりと力を発揮します。逆に、すべての項目が高い優秀な人を集めたからといって、それだけでうまくいくわけではありません。私自身、SPI3の結果はかなり偏りが大きいタイプですが、それでも会社は成り立っています。
一人ひとりを見て「こういう人だ」と理解するだけではまだ半分です。その人がどこに配置されるかまで含めて考えて、初めてマネジメントが機能するのだと思います。
組織が変われば求める人も変わる。ただし見極めは100%にはならない
――組織を変えたことで、採用の基準も変わりましたか。
枌谷:
組織を変えたから採用が変わったというより、私たちが顧客に提供する価値そのものが変わってきたため、求める人物像も変化してきています。
ただ制作物を仕上げることが価値の中心だった時代と、それによって顧客の事業をどう前に進めるかが問われる時代では、求められる力が違います。生成AIの登場で、その傾向はさらに強まりました。AIに任せる作業として切り出せる部分の価値は確実に下がっていきますからね。
結果として、どの職種でも「職人」のように自分の担当範囲だけを仕上げれば終わり、という仕事は減っています。代わりに、自分の考えを言語化して説明し、相手と合意形成していく比重が上がってきました。
実感として分かりやすいのは、社内でAIをうまく使っている人の働き方です。弊社にいるプロデューサーの何人かは、まだ入社して十分な経験を積んでいない中でも、私からのちょっとした助言をヒントに、AIと対話して自分の知識以上のアウトプットを引き出し、それを持って顧客との議論に臨めている。
何か手を動かして調べたり、カタチを整えることに時間を使うのではなく、目的を考えたり、出力されたものの良し悪しを判断することに力を注いでいるんです。これから強く求められるのは、たぶんそういう力なのだと思います。
――面接という短い時間で、そうした力をどう見極めるのでしょうか。
枌谷:
私が注目しているのは、思考の柔軟性です。固定観念に囚われない力と言い換えてもいいかもしれません。
「こう言われたから、こうするしかない」と考えてしまう人と、「そうは言っているけれど、本当はこうじゃないか」と一段深く考えられる人がいます。顧客の要望を額面通りに受け取る人と、「本当に求めているのは別のことではないか」と探れる人の違いですね。
これはクリエイティブ職に限った話ではなく、バックオフィスでも同じです。「これをしてはいけないとは言われていないから、少し工夫してみよう」と考えられるかどうか。どの仕事にも活きてくる部分です。
ただ、面接の限られた時間だけでこれを見抜くのは難しい。だからこそ、事前に何を確かめるべきかを絞り込むためにSPI3を使っています。
――使い方として、気をつけていることはありますか。
枌谷:
数値が低いから見送る、という使い方は絶対にしないことです。
データだけで合否の判断はしていません。面接で慎重に確かめるべきポイントを教えてくれるサインとして活用しています。実際に会って話してみたら、数値からの印象と全く違うこともよくありますから。
そもそも、採用の見極めが100%成功することはないと思っています。半分くらいは外れるものだ、という感覚でいます。「もしかしたら合うかもしれない」という程度で採用した人が大活躍することもあれば、確信を持って採用した人が早く辞めてしまうこともある。
ですから、入社後に「うまくハマっていないな」と感じたとき、組み合わせを含めてどうすれば活きるかを考えます。見極めの精度を上げることと、入社後の関係性を設計することは、常にセットだと考えています。
人材要件は固めきれない。だからこそ、一人ひとりを知る材料がいる
――生成AIなどによって大きな変化を迎えるこれからの時代に力を発揮するのは、どういう人になっていくと思いますか。
枌谷:
行き着くところは「人間力」や「コミュニケーション力」だと思っています。
もともとそういった傾向はありましたが、生成AIの台頭でより明確になったと感じます。才能はあるけれど周囲と協調できない人は、これから少し生きづらくなるかもしれません。
能力は少し劣るかもしれないけれど、場を和ませるのが上手いとか、愛嬌がある、優しいといった特性のほうが、AIが進化するほど価値を持ちます。「この人と仕事をするほうが楽しい」「この人に頼みたい」と選ばれる理由になりますからね。
職種の垣根もどんどん溶け合っていくと思います。ベースとして「人としての魅力」があり、そこにオプションとして各職種の専門スキルが付随している。そんな構造になっていく気がしています。
これは採用だけでなく、今いる社員にも当てはまる話です。専門スキルを磨いてきた人が、今後どこで力を発揮するのか。マネジメント側もそこを真剣に考えなければなりません。
――そうなると、人材要件を定義するのは難しくなりませんか。
枌谷:
そうですね。ただ、会社が変化し続ける以上、求める人材像もずっと変わり続けるものだと思っています。はっきりと固まらないまま進んでいくのではないかと。
逆に、要件をかっちり固めすぎるほうが危険なこともあります。本当は自社に合うはずの人材を、条件に当てはまらないという理由だけで弾いてしまうかもしれない。ある程度ゆるやかな要件を許容しながら進めるほうが、今の時代には合っていると考えています。
要件が明確に固まらないからこそ、目の前にいる人がどういう人なのかを知る「材料」の価値が上がります。「こういう人が欲しい」と決め打ちできないなら、来てくれた人や今いる人を一人ずつ深く理解していくしかありませんから。
――激しい変化が続くなかで、経営者や人事はどのようにマネジメントに向き合うべきでしょうか。
枌谷:
本音を言えば、人事やマネジメントのトラブルを誰も気にしなくていい状態が理想です。社員には、顧客への貢献と利益の創出に集中してほしいですから。
もちろん、良いサービスを提供するためにマネジメントは不可欠です。ただ大事なのは、人にかける労力をいつまでも「守り」に使い続けないことだと思っています。
組織が揺れているときは、離職や不調を防ぐ方向にどうしても時間が取られますし、それは必要な時期です。でも、そこに留まっていては組織は前に進みません。状況が落ち着いてきたら、「この人とこの人を組み合わせればもっと伸びる」「この人にはこういう仕事を任せよう」と、同じ材料を攻めの方向に使い替えていくべきです。
会社が変わり続ける以上、完璧な人材像もあるべき組織の形も、完全に固定することはできません。だからこそ、目の前の一人ひとりがどういう人なのかを客観的に知る材料を持っておくことの意義は、これからますます大きくなっていくと思います。